20190906

エネルギー代謝とエピゲノムの相互制御

稲垣 毅 教授

群馬大学 生体調節研究所 代謝エピジェネティクス分野

【要旨】

生体がうけた環境刺激情報が神経やホルモンを介して伝わると、細胞膜受容体や核内受容体を介して細胞内に伝えられ、転写から翻訳にいたるセントラルドグマを経てタンパク質発現制御による環境応答が起こる。例えば、水溶性ホルモンや神経伝達物質は、細胞膜上の受容体に結合してセカンドメッセンジャーを介したシグナル伝達を経て転写を制御するとともに、脂溶性ホルモンは、直接細胞膜を通過して細胞質内や核内に存在する核内受容体に結合し、ゲノム上の応答配列を介して転写を調節する。これらの転写調節因子がゲノム上に結合して転写を制御するためには、そのほかにもクロマチン構造変化やエンハンサーとプロモーター近接化、エフェクター因子のリクルートメントなどの様々な要因が関与する。また、転写後のスプライシングや翻訳制御、mRNAの安定性など様々な因子がセントラルドグマ調節に関与する。最近、これらの因子を制御する機構としてエピゲノム機構が注目されている。我々は、急性期と慢性期の環境刺激におけるクロマチン構造とエピゲノムの制御機構について検討し、急性期および慢性期の寒冷刺激において、クロマチン構造変化による急性熱産生制御機構とエピゲノム変化を介した長期の細胞性質制御機構を解明した。後者の機構においては、シグナル感知に基づく標的遺伝子領域へのヒストンメチル化修飾酵素のリクルートメントと、それに続く酵素活性を介したエピゲノム書換えの二段階の機構を解明した。現在我々は、これらの二段階機構の間を取り持つ制御機構について、エピゲノム酵素活性に必須の代謝物の観点から研究を進めている。転写から翻訳にいたるセントラルドグマの一連の過程は多くのエネルギーを消費する過程であることから、環境変化にともなうエネルギー代謝状態を感知してセントラルドグマを制御するエピゲノム制御機構があると考えられる。今回、これまでの研究成果を紹介してエネルギー代謝とエピゲノムの相互制御の機構について議論したい。

日時: 2019年09月06日(金) 17:00~18:30
場所: 理学部3号館4F 412室
連絡先: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科
黒田 真也(skuroda AT bs.s.u-tokyo.ac.jp)