セミナー詳細

20180719

クロマチン組成変化から考える細胞分化能制御 ~トランスクリプトミクスの新たな展開~

大川 恭行 博士

九州大学生体防御医学研究所

【要旨】

骨格筋分化の過程では、ゲノム上に存在する2-3万もの遺伝子から特定遺伝子の発現が選択され、形質を獲得に必要なmRNAが転写される。この選択的な遺伝子発現はクロマチン構造により制御されている。遺伝子発現の過程で、まず特定の種類のヒストンが選択的に遺伝子の制御領域(プロモーター、エンハンサー等)に取り込まれる。その後時系列に従い、個々の様々なヒストン修飾からクロマチン高次構造変換に至る一連のクロマチン構造制御が行われる。しかしながら、その起点であるヒストン選択の機構については未だ不明な点が多い。従来3種のヒストンH3H3.1/H3.2, H3.3知られていたが、2015年に我々はマウス、ヒト新規H3バリアント(亜種)遺伝子群13種(ヒト3種)を新たに同定した。この成果は、生体内での遺伝子発現には、より複雑かつ緻密なヒストンH3の選択機構が関わっている可能性を示唆している。以来、新規ヒストン遺伝子のノックアウトマウスを網羅的に作成し、各ヒストンバリアントの機能解析を進めてきた。現在までに骨格筋組織に高発現するヒストンH3バリアントが骨格筋再生能維持に関わっていることを見出している。本講演では現在までに得ている知見とともに、骨格筋組織内の少数細胞の遺伝子発現制御解析を可能にしたトランスクリプトミクス技術も合わせて紹介したい。

日時: 30年07月19日(木) 17:00~18:30
場所: 理学部3号館4F 412室
連絡先: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科
黒田 真也(skuroda AT bs.s.u-tokyo.ac.jp)

20180702

Cellular Variability and Information Flow in Signal Transduction Networks

Dr. Roy Wollman

Department of Chemistry and Biochemistry, University of California, Los Angeles

【要旨】
Signaling networks act as sensors, or measurement devices, that encode information on the extracellular environment that can be decoded by cellular effectors to allow cells to respond to environmental changes appropriately. Experimental single-cell measurements of signaling responses indicated a high level of response variability raising the possibility that cellular responses are limited in their biochemical accuracy. I will discuss our efforts to examine the question of the accuracy of cellular signal transduction networks in the context of the encoding-decoding paradigm. Can cells utilize multivariate encoding to increase accuracy? Is encoding or decoding step is the rate limiting in term of information flow? And to what degree does preexisting cellular state plays a role in how information is transmitted? Gaining a deeper understanding of these questions can help understand how the structure of signaling network plays a role in their functional role to allow cells to respond to changes in their environment.

日時: 平成30年07月02日(月) 17:00~18:30
場所: 理学部3号館4F 412室
連絡先: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科
黒田 真也(skuroda AT bs.s.u-tokyo.ac.jp)

20180614

見えないものを「みる」!質量顕微鏡の開発と応用例

新間 秀一 博士

大阪大学工学研究科 生命先端工学専攻

【要旨】

イメージング質量分析(IMS: imaging mass spectrometry)は二次イオン質量分析法を用いた、材料を対象とする表面分析法を基にしており、1990年代半ばにLAMMA(laser microprobe mass analyzer)のコンセプトをマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI:matrix-assisted laser desorption ionization)に適用しR. M. CaprioliやB. Spenglerらにより生体分子の可視化が初めて行われた[1, 2]。発表当初、質量分析法におけるタンパク質のイオン化でノーベル化学賞が受賞されたことから、多くの研究者がタンパク質のイメージングを目指したが、現在では生体内小分子(代謝物や脂質)ならびに薬物などのイメージングが主流となっている。
本講演では、まずIMSの方法について概説し、日本におけるIMS研究の先駆けとなる質量顕微鏡の開発コンセプト(図1)や開発エピソードについて取り上げ、質量顕微鏡の治験への導入例を紹介する。また、演者のグループで取り組んでいるがん組織における代謝物可視化事例と測定におけるノウハウについても簡単に紹介したい。

参考文献

  1. Caprioli R.M. et al., Anal. Chem., 69, 4751 (1997).
  2. Spengler B. et al., J. Am. Soc. Mass Spectrom., 13, 735 (2002).


日時: 平成30年06月14日(木) 17:00~18:30
場所: 理学部3号館4F 412室
連絡先: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科
黒田 真也(skuroda AT bs.s.u-tokyo.ac.jp)

20180511

オートファジーの膜動態と生理的意義

水島 昇 博士

東京大学 大学院医学系研究科

【要旨】
オートファジーは多くの真核生物に備わっている細胞内分解システムである。オートファジーでは、細胞質の一部がオートファゴソームに取り囲まれた後にリソソームへと輸送され、分解される。酵母を用いた遺伝学的研究をブレークスルーとして、オートファジーの分子機構と生理的機能の研究はこの約20年間でめざましい発展を遂げた。オートファジーの役割は、アミノ酸などの分解産物を調達するための栄養素のリサイクルと、細胞内の品質管理や浄化の二つに大別される。後者は、特に神経細胞などの長寿命細胞で重要であり、家族性パーキンソン病などのヒト神経変性疾患においてオートファジー関連因子の変異が発見されている。一方で、オートファジーの分子機構の解析も進んでいる。これまでの主体であったオートファゴソーム形成過程に加え、最近はオートファゴソームの成熟過程やリソソームとの融合過程のメカニズムの研究も進展している。講演では、オートファジー膜動態の未解決課題や脊椎動物で新たに見つかった生理機能なども紹介したい。

日時: 平成30年05月11日(金) 17:00~18:30
場所: 理学部3号館4F 412室
連絡先: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科
黒田 真也(skuroda AT bs.s.u-tokyo.ac.jp)

20180413

腸内細菌と宿主生体防御・免疫系

大野 博司 博士

理化学研究所 統合生命医科学研究センター(IMS) 粘膜システム研究グループ グループディレクター

【要旨】
 ヒトをはじめとする動物の体表面や消化管、泌尿生殖器などには膨大な数の常在共生細菌が定着している。特に大腸では、その総数はヒトで約40兆個と、30兆個とされるヒト自身を形成する真核細胞数を凌駕する。
 腸内細菌の多くは現在の培養法では培養できない難培養菌とされ、最近までその全容は不明であった。しかし、いわゆる次世代シークエンサーの登場により、単離培養を経ずとも、ある環境中の生物群衆が全体としてどのような遺伝子を保有するかを明らかにする「メタゲノム解析」が登場し、ヒト一人の腸内には百数十種の細菌が存在し、それらが保有する遺伝子数は約60万と、ヒトの遺伝子数約22,000をはるかに凌駕することが明らかとなった。このように多種多様な遺伝子を擁する腸内細菌同士が相互作用して複雑な代謝系を形成し、さらに宿主との相互作用により「腸エコシステム」と呼ばれるユニークな生態系を構築している。メタゲノムをはじめとする最近の研究により、腸内細菌は宿主の生理・病理に多大な影響を与え、腸疾患のみならず、代謝性疾患、免疫疾患、さらには神経疾患の病態への関連も示唆されている。疾患に伴い異常になった腸内細菌は疾患の症状の原因となることも明らかになってきた。
 しかし、メタゲノム解析は遺伝子のカタログ作りであり、腸内細菌の異常がどのように疾患の発症に繋がるかそのメカニズムは解明できない。そこで演者らは、ゲノム(DNAレベル)に加え、トランスクリプトーム(RNAレベル)、メタボローム(代謝産物レベル)など異なるレベルの網羅的解析を組み合わせた統合オミクス手法を考案・提唱してきた。統合オミクス手法により、例えば腸内細菌が産生する酢酸はマウス大腸上皮細胞の遺伝子発現プロファイルを変えることで病原性大腸菌O157に対する抵抗性を付与し、結果としてマウスはO157感染死を免れることが示された。また、腸内細菌が産生する酪酸は、ヒストンデアセチラーゼ阻害によるエピゲノム修飾を介して大腸内における制御性T細胞の分化促進に働くこともわかった。さらに最近演者らは、自己免疫疾患のひとつである多発性硬化症の発症への小腸内の常在細菌の関与をマウスモデルで解析しており、それについても紹介したい。

日時: 平成30年04月13日(金) 17:00~18:30
場所: 理学部3号館4F 412室
連絡先: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科
黒田 真也(skuroda AT bs.s.u-tokyo.ac.jp)