20231102

代謝系における普遍的な線形応答関係

畠山 哲央 博士

東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 助教

【概要】

代謝は生命の物理化学的基盤である。細胞の代謝状態を予測することは生命科学の重要な問題であり、同時に、その挙動を理解することは生物物理学の主要な課題の一つである。また、代謝系が環境変動や薬剤などの投与に対して、どのように応答するかを予測することは、代謝工学や薬物の開発など、実用上も重要である。
これまでの研究では、代謝系の応答を予測するために、Bernhard Ø. Palssonなどによって開発されたconstraint-based modelingが使われることが多かった。この手法では、まず反応の詳細な情報を含む代謝系のモデルを作成し、その最適化問題を解くことによって代謝系がどのような状態を取るのかを予測する。そして、複数の環境間でその最適な状態を比較することで、代謝系の応答を予測する。しかし、これにはいくつかの問題がある。まず、代謝反応の詳細な情報がわからない生物種や細胞種では、そもそも代謝系のモデルを構築すること自体が困難である。また、細胞がどのような目的関数を最適化しているのかを知ることは、原理的に不可能に近い。
それでは、代謝系の詳細に依存せずに、その応答を予測する方法はないのだろうか。我々は、代謝状態そのものではなく、代謝系の摂動に対する応答に焦点を当てることで、代謝応答を普遍的に予測する方法を見出した。具体的には、ミクロ経済学における消費者行動の理論を用いることによって、栄養物(グルコースなど)の量の変化に対する代謝応答と、代謝の効率の変化(代謝阻害剤の投与や中間代謝物の漏れなど)に対する代謝応答の間に線形関係が成り立つことを見出した。この線形関係は、質量保存の法則が成り立つ限り(すなわちどのような系でも)、代謝系の詳細に依存せずに普遍的に成立する。また、栄養物の量の変化に対する代謝系の応答という、比較的測定が容易であると考えられる量さえ知ることができれば、詳細な事前知識なしに、薬剤投与や中間代謝物の漏出に対する代謝系の応答を定量的に予測することができるため、実用上も有用であると考えられる。
本発表では、理論的な基礎からスタートし、具体例を通じて、実際の応用まで議論したいと考えている。
参考文献:

Yamagishi, J. F., & Hatakeyama, T. S. (2023). Linear Response Theory of Evolved Metabolic Systems. Physical Review Letters, 131(2), 028401.
Yamagishi, J. F., & Hatakeyama, T. S. (2021). Microeconomics of metabolism: the Warburg effect as Giffen behaviour. Bulletin of Mathematical Biology, 83(12), 120.

日時: 2023年11月2日(木) 16:00~17:30
場所: Zoom と 会場(東京大学、理学部3号館、412号室)
連絡先: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科
黒田 真也(skuroda AT bs.s.u-tokyo.ac.jp)

参加希望の方は
info.kuroda-lab [at] bs.s.u-tokyo.ac.jp
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