20220902

共生進化を目の前で起こして解明する

深津 武馬 博士

産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門・首席研究員

(兼務)東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻 教授(兼任)
    筑波大学大学院 生命環境科学系 教授(連携大学院)
    戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO) 深津共生進化機構プロジェクト 研究総括

【概要】

進化は過去に起こったことであり、進化生物学はその過程や機構を「推定」する科学的営みであるという言明はある程度は妥当である。研究対象の特性による制約から、進化生物学はレトロスペクティブな形をとりがちであることは否めない。だからこそ、進化生物学における1つの理想形として、目の前で起こる進化を観察し、その過程や機構を「実証」するというアプローチ、すなわち「実験進化学」がある。世代時間が短く進化速度の高い微生物、特にモデル微生物の筆頭とも言える大腸菌を用いた実験進化により、増殖速度、高温耐性、抗生物質耐性などさまざまな適応形質進化の過程および機構に本質的な理解がもたらされてきた。このようなアプローチから、どこまで「複雑な」「高度な」「いかにも起こりにくそうな」進化過程の実証的理解に迫れるであろうか?

私たちは近年、特定の難培養性腸内共生細菌が生存に必須なチャバネアオカメムシ [1] において、共生細菌を除去した孵化幼虫に高速進化大腸菌を摂取させ、最も早く羽化した成虫、あるいは最も正常な緑色に近い成虫の腸内に定着していた大腸菌を次世代に接種することを繰り返すことにより、カメムシの成長および生存を有意に支持する能力を有する共生進化大腸菌系統を実験室で進化させることに成功した [2,3,4]。

大腸菌はもっとも理解が進んだモデル生物の1つである。4.6 Mb前後のゲノムに約4,300遺伝子がコードされ、うち約7割に機能情報がある。高度な分子遺伝学技術を自在に適用でき、豊富な遺伝的リソースが利用可能である。もちろんマウスに感染させての機能解析も可能である。このような大腸菌を「昆虫共生細菌化」することによって何ができるようになるのか、その最前線について紹介する。

[1] Hosokawa et al. (2016) Nat Microbiol 1, 15011 https://www.nature.com/articles/nmicrobiol201511
[2] Koga et al. (2022) Nat Microbiol 7, 1141 https://www.nature.com/articles/s41564-022-01179-9
[3] プレス発表「大腸菌を昆虫共生細菌に進化させることに成功」 https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2022/pr20220805/pr20220805.html
[4] 【速報】共生関係の進化を目の前で起こすことに成功 https://youtu.be/xIrw0BQzF5M 

 

日時: 2022年9月2日(金) 16:00~17:30
場所: Zoom
連絡先: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科
黒田 真也(skuroda AT bs.s.u-tokyo.ac.jp)

参加希望の方は
info.kuroda-lab [at] bs.s.u-tokyo.ac.jp
までメールをいただければZoomのURLを送付いたします。所属機関のメールアドレスでお願いします。個人のメールアドレスはお控えください。その際には、氏名と所属も合わせてお願いいたします。