20180731-1

ニュートリオミクスから迫るがんの病態解明と治療戦略

大澤 毅 博士

東京大学先端科学技術センター

【要旨】

我々は、低酸素・低栄養・低pHなどの過酷な微小環境に適応しがんが悪性化するしくみを研究してきた。過酷な微小環境でがん細胞を維持する独自の細胞培養法を樹立し、DNA、RNA、代謝産物のオミクスデータの統合的な解析から、(1)低酸素・低栄養で生存したがん細胞は、エピゲノム変化を介して転移・浸潤などがんの悪性化を促進すること(PNAS 2011, Cancer Res. 2013)、(2)低pH環境のがん細胞は、SREBP2を介した酢酸代謝を利用して生き残ること (Cell Reports 2017)、(3)低栄養で高発現する非コード長鎖RNA(JHDM1D-AS1)を発見し、がんの増殖を促進すること(MCB 2017)を報告してきた。

がん細胞は低酸素・低栄養・低pH環境において、ミトコンドリア非依存的な嫌気的解糖系、次いで酢酸代謝、さらにグルタミン代謝という多重の環境適応システムで生き残るという知見を得てきた。従来の学説ではオートファジーはロイシンなどのアミノ酸欠乏を認識しmTORシグナル抑制により活性化され、飢餓に適応する仕組みと考えられてきた。エピゲノム、トランスクリプトーム、メタボローム情報を統合することにより、がん細胞でより極限的な飢餓状況では、グルタミン欠乏が脂質代謝遺伝子(PCYT2)の転写抑制を介して、オートファジーを抑制し生き残るという、糖・脂質・アミノ酸にわたる適応メカニズムを発見しつつある。本セミナーでは、各種のオミクス解析の実施例を示すとともに、がんで蓄積する代謝産物がどのようにがんの病態に関与し、新たなバイオマーカーや治療標的に繋がる可能性を議論する場としたい。

日時: 2018年07月31日(火) 14:00~15:00
場所: 理学部3号館3F 310室
連絡先: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科
黒田 真也(skuroda AT bs.s.u-tokyo.ac.jp)