膜電位時系列を用いた細胞内分子シグナル伝達の推定
作村 諭一 博士
奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域 計算生物学
【要旨】
神経の活動電位現象では、膜電位と膜タンパクが対等な立場でシステムを構成している(Hodgkin & Huxley,1952)。膜タンパクが全ての決定権をもたないゆえに、神経は電気的刺激に反応することができる。同様に、我々の研究室では細胞機能を多彩な物理量のシグナルフローとして定量数理モデルを構築してきた。例えば、神経細胞の極性形成現象が、クラッチタンパク、機械的力、神経突起の長さによるシステムであることを示した(Toriyama et al, 2010)。神経細胞が機械的力や突起長そのものを刺激として受容し、形態形成することが説明できる。このように、特に表現型が分子以外の物理量である現象は、多彩な要素によるシステムである可能性が高い。
本講演では、神経軸索の誘導現象における、システム要素としての膜電位に注目したシステム同定研究を紹介する(Yamada et al,2018)。Xenopus spinal cord は誘導因子 Sema3Aを受容すると膜電位を変化させる一方で、膜電位依存で忌避性と誘引性の運動を変化させる(Nishiyama et al, 2008)。ゆえに、Sema3Aから膜電位変化にいたるシグナル変換の解明は、この現象を理解する上で重要である。しかし、細胞内の分子シグナル伝達を調べることは困難であり、応答の膜電位も細胞個性によるばらつきが大きい。そこで我々は、細胞個性を確率分布として表現し、ベイズ理論の枠組みで膜電位時系列から細胞内の分子シグナルフローの推定を行った。その結果、PKGから塩素イオンチャネルへの抑制シグナルフローが推定された。本研究で用いた方法論を解説する。
参考文献
Toriyama et al., Mol. Syst. Biol., 6:394, 2010.
Yamada et al., Scientific Reports, doi:10.1038/s41598-018-22506-3, 2018.
日時: 2019年01月17日(木) 17:00~18:30
場所: 理学部3号館4F 412室
連絡先: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科
黒田 真也(skuroda AT bs.s.u-tokyo.ac.jp)