イメージングプローブの問題

細胞や生体内部の分子の状態を計測するためにいろんな蛍光プローブや発光プローブを
用いたイメージングプローブが開発されている。なんと言っても同じひとつのサンプルか
ら時空間ダイナミクスを連続して計測できるのが強みだ。細胞内のダイナミクスを知るに
はこれを使わない手はないと思わせる。でも、その蛍光プローブの信号を取り扱う際には
ちょっとした注意が必要だ。

ポイントは、本当に計測したいのは内在性分子の活性や局在などだが直接観測できな
いため、イメージングプローブを用いてそれらの状態を間接的に計測している点だ。つま
り、イメージングプローブの信号は内在性分子の状態を反映しているものの同じではない
ので、内在性分子の状態を知るためにはイメージングプローブの信号を何らかの方法で内
在性の分子の信号に変換してやる必要がある。

具体的にCa2+プローブを例にとり説明しよう。Ca2+とCa2+プローブの結合は以下のよ
うに表されるとしよう。

110221eq1.png

ここで実際に観測する蛍光シグナルは、直接Ca2+ではなくて、Ca2+・Ca2+プローブの複
合体に依存していることに注意しよう。

例えば、逆反応が極めて遅い場合、つまり、いったんCa2+とCa2+プローブが結合したら
外れないような場合を考える。この場合、Ca2+波形が図のように一過性であっても、
Ca2+・Ca2+プローブの複合体はそのまま持続性に結合したままとなる。この場合、Ca2+・
Ca2+プローブはCa2+波形の積分値である。この場合、Ca2+波形はCa2+・Ca2+プローブの波
形の微分値に対応する。(下図は、右がプロモータ活性、左がルシフェラーゼ活性と思え
ば、遺伝子発現のレポーターアッセイでも同じことが言える。ただし、ルシフェラーゼの
分解はプロモータ活性に影響しない点が上記とは異なる)

110221fig1.png

次に、逆反応がある程度速くなると、Ca2+・Ca2+プローブの複合体は、Ca2+波形をある
程度なまらせた波形となる。

110221fig2.png

さらに、逆反応をもっと速くしていくと、Ca2+・Ca2+プローブの複合体はCa2+波形を次
第によりよく追随できるようになる。さらに、逆反応をもっと速くしていくと、Ca2+・
Ca2+プローブの複合体はCa2+波形を次第によりよく追随できるようになる。

110221fig3.png

だったら、逆反応を速くしておけばいいように思うかもしれないが、逆反応が速くなれ
ばなるほどCa2+・Ca2+プローブの複合体の量は少なくなる。つまり、蛍光シグナルは弱く
なる。

このように、内在性分子の波形を蛍光プローブの波形に一致させたければ逆反応を速く
すればよいが、それでは逆に蛍光シグナルの強度が下がってしまう。このように、蛍光シ
グナルが直接内在性分子の波形を反映することと、蛍光シグナルの強度はトレードオフの
関係にある。

また、内在性分子の波形を蛍光プローブの波形にそれなりに近づけたければ、内在性分
子の波形の時間変動パターンよりも、プローブの結合の時定数が速ければまずはだいたい
追随できるとしてもよいと思われる。したがって、内在性分子の波形は蛍光プローブの信
号を蛍光プローブの反応様式に従い逆算して求める必要がある。基本的にはすべてのイ
メージングプローブは同じ問題を抱えている。

また、プローブを細胞内に導入すれば細胞内部の状態を変化させてしまうため、プロー
ブを導入していない元の状態とは異なる状態になってしまう。これはイメージングプロー
ブが持つ本質的でやっかいなもう一つの問題だ。これについてはまたどこかで説明した
い。