20250606

いきものの形を生み出す原理は何か?

近藤 滋 博士

国立遺伝学研究所 所長

【概要】

 生物の形態形成で最も不思議なのは、すべての始まりである卵が「形を持たない」のに、成長とともに驚くほど複雑で秩序ある形態を獲得していくことです。それを可能にするには、位置や方向を決める“物差し”が必要ですが、それはどこから来るのでしょうか? この謎に初めて合理的な答えを与えたのは、生物学者ではなく数学者アラン・チューリングでした。彼は「反応拡散」という化学反応が波を生み出す仕組みを予測し、それが皮膚の模様や臓器の形を決める鍵であることを示しました。今ではこの理論は、発生の基本原理として広く認められています。反応拡散理論は、2次元的な繰り返しパターンを簡単に生成しますが、生物の形態は、より複雑であり、かつ3次元です。ですから、実際の「いきものの形」を作るには、別の原理が必要なはずです。それを探すために我々のグループでは、いくつかの特徴的な形態を持つ生物について、理論的、実験的にその原理を探してきました。今日のセミナーでは、その試みをいくつか紹介させていただきます。
 一つ目は、カブトムシの角です。昆虫は脱皮で成長しますが、その前後で大きく形が変わることがあります。カブトの角はその典型的な例です。幼虫の頭部には、角の原基が格納されており、表面に特殊なパターンで皺が刻まれた袋のような構造をしています。蛹への脱皮の時には、袋の中に体液を送り込むと、皺が伸びながら袋が膨らみ、角が完成します。再封的な角の形態は、袋に刻まれた皺のパターンがコードしていることになります。(松田佳祐現九大助教、足立晴彦現慶応大研究員)
 2つ目の例は、魚のヒレです。段階的に大きくなる昆虫とは違い、連続的に大きくなる内骨格動物は、全く別の原理が必要です。我々(特に生命誌研究館所属の黒田純平研究員)は、細胞が、コラーゲン繊維を柱のような構造材として使うことで、成長と形態形成を行う仕組みを明らかにしつつあります。
 最後にもう一つ。この複雑な貝殻、どんな原理で作られているのでしょう?詳細は省きますが、この美しい形の設計原理は、脳の中に存在する「貝の意志」なのです。何を言っているのかわからないと思いますが、このセミナーを聴講した後には「そんなのあたりまえじゃん」と思っていただけるはずです。ご期待下さい。

日時: 2025年6月6日(金) 15:00~16:30
場所: Zoom と理学部 1 号館337A 号室
連絡先: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科
黒田 真也(skuroda AT bs.s.u-tokyo.ac.jp)

参加希望の方は
info.kuroda-lab [at] bs.s.u-tokyo.ac.jp
までメールをいただければZoomのURLを送付いたします。所属機関のメールアドレスでお願いします。個人のメールアドレスはお控えください。その際には、氏名と所属も合わせてお願いいたします。