多要素システムの進化情報学:マクロ進化パスウェイで読み解く複雑なシステムの進化
鈴木誉保 博士
順天堂大学 大学院医学研究科・助教
【概要】
生物は多くの要素が組み合わさった多要素システムによって多様な機能を実現してきた。蝶の擬態模様、動物のカメラ眼、細菌の走化性システム――これらはいずれも複数の要素の統合によって成立したシステムである。これらの組み合わせはランダムに生じるのではなく、繰り返し進化する組み合わせがある一方で、ほとんど現れない組み合わせも存在する。では、なぜ特定の組み合わせが進化的に選好され、進化の道筋が制約されるのか。その仕組みはいまだ十分に理解されていない。この問いに迫るためには、マクロ進化を系統レベルで追跡し、形質の獲得・消失・状態変化を定量的に解析する枠組みが必要である。その代表的手法が系統比較法(Phylogenetic Comparative Methods; PCMs)である。本講演では、まずPCMsの基礎を解説し、祖先状態推定といった古典的な応用を概観する。その上で、我々が開発し、近年注目されつつある複合適応形質の進化順序推定を含む新たな枠組みとして、マクロ進化パスウェイ解析を紹介する。具体的には、細菌における形態・運動性・胞子形成といった表現型の組み合わせ進化を題材とし、進化の制約・方向性・袋小路など進化パスを描き出す。さらに、その結果をゲノムエンリッチメント解析やAlphaFold Multimerによるタンパク質間相互作用解析と統合することで、表現型と遺伝的基盤との対応関係を明らかにする。続いて、走化性遺伝子群の組み合わせ進化を例に、複雑なシグナル伝達システムの設計原理を紹介する。最後に、表現型と遺伝子の対応関係を研究する今後の展開について議論する。
日時: 2025年10月23日(木) 15:30-17:00
場所: 理学部 3 号館412 号室
連絡先: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科
黒田 真也(skuroda AT bs.s.u-tokyo.ac.jp)
